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東京高等裁判所 昭和24年(新を)1176号 判決

被告人

渡辺淸司

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年に処する。

原審における未決勾留日数中三十日を右本刑に算入する。この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。訴訟費用中弁護人平井庄壱に支給した分は被告人の負担とする。

理由

弁護人宗宮信次、同池田浩一の控訴趣意第一点及び第二点について。

(イ)窃盜罪の見張行爲は或場合には共同正犯であることがあり或場合は單に從犯に止ることがある。共同正犯は数人が互に協力して自己の犯罪を実現する意思を以て自己の行爲を自己の犯罪実現に使用すると同時に他人のためにも奉仕し他人の行爲を又自己の犯罪実現に利用するもの即ち互に利用奉仕の関係に結ばれているものである、從つて各人は自己の行爲に対する責任は勿論他人の行爲の責任をも負担し結局において各人は全員のなした行爲に対する責任を負ふものである、故に共同正犯者の一人は單に見張をなしたに過ぎなくとも或は何等行爲をしなくても他の共同正犯者が犯罪を実現した以上は正犯たる責任を免れないものである、これに反して從犯は自己の犯罪を実現する意思はなく專ら他人の犯罪実現に奉仕するものである、即ち相互的に利用奉仕の関係にあるのでなく一方的に奉仕の関係あるのみである。この場合他人の犯罪とか自己の犯罪とかいうのは單に他人のためとか自己のためとかいうのと異なり実行行爲を離れて観念することができないもので他人のためであつても実行行爲をするものは即ち自己の犯罪なのである。窃盜の見張か共同正犯であるか從犯であるかは右の見地に立つて判断しなければならないものであるが右の見地に立ち本件記録を精査すると被告人を共同正犯者と認定した原判決は事実誤認である。從つて原審の科刑は重きに過ぐるものがある。論旨いずれも理由があり原判決は破棄を免れない。

同第三点について。

(ロ)刑事訴訟法第三二六條に書面が作成され又は供述のされたときの情況を考慮し相当と認めるときに限り云々証拠とすることができるとある趣旨は採証上の準則を規定したもので当事者が同意した書面であつても作成され又は供述されたときの情況を考慮せよそしてそれが相当であると認められたら証拠としてもよいが不相当であると思われたら同意に拘わらず証拠としてはならないという意味である。從つて裁判所において書面自体を取調べて相当だと認めれば証拠に採用してよいし、相当性に疑があれば進んでこの点を審査した上採否を決定すべきであるが常にこの点に特別の証拠調をしてからでないと書面を証拠に採用することができないというものではない。

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